俺は、この仕事が好きなのだな。特に、一人の人間を、待って、待って、ただただ待ち続けて、このタイミングだなというときに、本気にさせていく、そして、一気に伸ばしていく。これが、この一瞬が好きなのだ。僕が、こうやって人を本気にさせることができるようになったのは、師匠のお陰だ。若い頃は、師匠に憧れつつも自分には絶対無理!と思っていた。で、実際できなかった。だが、自分が看板をしょって、体を張り、命を削りながら、この仕事をしていくうちに、ごく自然にわかるように、できるようになった。今だな、というのがピンとわかるようになった。誠実に、命を賭けて、ひとつのことをやり続けていくと、その積み重ねが相当に大きくなることもあるのだ。そして、一度身に付けたものは、そうそう簡単には崩れない。
これも、体をはって、顧客と向き合う姿をいつもいつも見せてくれた師匠のお陰なのだ。
コーヒーショップ
時間があるときに行くコーヒーショップがある。久しぶりにそのコーヒーショップに来た。まわりは下町のお年寄りばかりだ。その中にぽつんと自分がいる。時間の進み方がここは違う。ゆったり、してるのだ。テーブルとテーブルの間隔も広い。四人がけのテーブルに一人で座ってもやらしくない。ゆったりしたいな、と思うとこのコーヒーショップにくる。
コーヒーが体に沁みる。カフェインが効いてくる。ここに来ると、やっと来れたなっていう気持ちになる。僕もあと二三十年したら、毎日ここに来るのかな。そんなことを考えるうちに、そろそろ時間になった。
温泉
ひたすら温泉にはいる。
頭を洗っては、温泉にはいる。
歯をゆっくり磨いては、温泉にはいる。
髭を剃っては、温泉にはいる。
体を清めては、温泉にはいる。
ご飯を食べては、また、温泉にはいる。
そして、眠る。
体が弛緩して、眠るだけ眠れる。
安心して、眠れる。
朝、体が休んだのだな、とわかる。
で、もう一回、温泉にはいる。
髪を整えて、
シャツを着て、
ネクタイをする、
スーツを着る、
腕時計を着ける
これで、
頑張れる。
神様、
ありがとう。
生きる
僕には孤独癖がある。いつもいつもひとりぼっちだという感覚だ。もともと、この強い孤独癖のお陰で、独立してやっていくことができている。学生の時は、苦しかった。みんなと群れたり、つるんだりすることができないからだ。今でもやはり、人の輪の中に入るのは苦手だ。というより、できない。まあ、これでいいと思っているのたが。
だが、最近、自分は孤独ではないな、と思えるようになった。たしかに、孤独は孤独なのだが、つながっているな、何か自分が愛情なり、思いやりなりを、なにくわずにかけていると、繋がるものなんだな、と思うのだ。人と人との関係は目に見えるものではもちろんない。見えないのだけれど、自分がかけたものの、ほんの一パーセントくらいの糸でつながっている気がするのだ。
僕には孤独癖がある。今まで、ずっとこの強い孤独癖のお陰でやれてきた。この気質は変わらない。きっと。でも、誰かのために、精一杯やっていると、ほんのわずかでも、人と繋がれるのだなと、やっと思うようになったのだ。
許すということ
どうしても、許せないことがある。
だとしても、許せないことを、許さないまま、心に残しておくことは止めよう。
たとえ、許しがたいことでも、許してしまおう。
許します、と言ってしまおう。
りくつではない。
人を憎むことは、実は自分を傷付けていること。
人を許さないということは、自己の心を虐げていること。
憎むより、許さないままでいるより、
許すことで、自分を解放するのだ。
許すことで、自分の心を抱きしめるのだ。
許すことで、本当に大切な人に気が付けるのだ。
ここからが本当の
ここからが本当の戦いだ。
戦いは人を成長させる。
肝が据わるとはどういうことかが、わかる。
本当に辛い時、もう駄目だという時、人は如何に力が出るかが、わかる。
人は絶体絶命の時、研ぎ澄まされるということが、わかる。
今まで、努力していればこそ、わかる。
戦いは、これからだ。
どんなに辛いことが起ころうと
苦しみが待とうと、
もう駄目だ、と思おうと
すべては、ここから始まる。
すべては、絶体絶命から、始まる。
立ち向かえ。
迎え撃て。
逃げるな。
すがるな。
真正面から戦い抜け。
自分の、
自分だけの力で。
わかったら、
前を向いて、
戦ってこい。
今までのすべてを賭けて
戦ってこい。
神が与えてくれた試練
この何年間は神が与えてくれた。神が、この私に次へ行くように、試練を与えてくれたのだ。
わかってくると、どんどん、余計な力が肩から抜けていく。腹からも抜けていく。頭からも。
そして、より本質的な、よりたいせつなものに意識が集中していく。
今まで、なかなか得ることができなかったものが、得られる。
これが、幸福だ。
喜んでいられるのはほんの一瞬だが、
今だけは、よろこんでいよう。
次の旅に出るまで。
何だろう
何だろう
長い、長い、旅の果てに
急に、力が抜けて
空を飛んでいるような
魔法の絨毯に乗っているような
なんのわだかまりもない
なんのまよいもない
おだやかな心になれる
いつもなら
ピリピリ、ジリジリしてる
でも、
なにものにも、まどわされない
ふわっと、ういている感じ
頭ははたらいてる
ふるで
何年かに一度
今まで出来なかったことが
できるようになる
そんなことが
何年かに一度
ある
つらいことが続いたらね
辛いことが続いたら
辛いことが何回も何回も続いたら
憂き事の
尚この上に
積もれかし
限りある身の
力試さん
この歌を
何度も自分に言い聞かす。
憂き事の
尚この上に
積もれかし
限りある身の
力試さん
どんなに疲れきっていても
心が折れかかっていても
やれるのだ
この歌だけで
眠る
眠る。
ひたすら眠る。
今宵は、
今宵だけは、
安心して
何も考えず
ただただ
穏やかに
眠る。
もう、何もしなくていいから。
もう、何もおもわなくていいから。
からだの力をすべて抜いて
眠れ
眠れ
眠れ